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February 01, 2006

「悪役レスラーは笑う」を読む

書中でも記述されているが、岩波がプロレスを取り上げるのは珍しいことかもしれない。しかし、これは第2次世界大戦を挟んで二つの祖国の中で泳いでいった日系人レスラーの記録をヨコ糸に「国民的英雄」と囃し立てられながらも実は日本人ではなかったあるレスラーとの交流をタテ糸にして織り上げられたドキュメンタリーである。
プロレスとは、善玉(ベビーフェイス)と悪玉(ヒール)との対決が基本であり、悪玉が善玉を散々痛めつけたあげく、最後は善玉が勝つというのが中心的なシナリオになっているショースポーツである。一方で悪玉はまた次の日には平然として善玉を嬲り者にし、時には勝つことすらある。しかも、一片の勧善懲悪ものと異なるのは、悪玉が負けるのを見るためにリングに群がる多くのファンがいるということだ。このため、ギャラは往々にして善玉よりも悪玉の方が高いこともあるという。
本書の主役グレート東郷であるが、第二次大戦後、まだ反日感情が渦巻く米国各地で悪玉としてリングにあがった。リングに上がる際、高下駄に法被、頭には鉢巻という姿で登場し、紋付姿の従者を従え、従者がリングの中央に焚いた香に跪き、お神酒を咥え、さらにリングの四方に塩を撒く。コーナーに戻ってから法被、下駄を脱ぎ、四股を踏み、試合開始前の相手の握手の求めに応じようとせず、ニヤニヤ笑いながら中国風の奇妙なお辞儀をする。このスタイルで日本人の悪玉レスラーのプロトタイプを築いたようである。
1959年には初来日し、以後日本のリングにも登場するのであるが、日本では米国式のプロトタイプが通用せず、少し中途半端なポジションだったようだ、しかしながら、日本プロレスの祖とも言うべきあのレスラーとの意外な関係はなかなか興味深く読むことができる。
ところで、本書を読んで始めて知ったのは、プロレスはもともと、カラーアンドエルボー という競技から端を発しているので、必ず体の左半身を軸にして、左から攻め、右に動くという形をとるということだ。このため、例えば、ヘッドロックでは必ず左脇で相手の頭を抱え、最初の組み手であるロックアップも左手を相手の首の後ろに回し、右手で相手の左手の肘を押さえるスタイルをとるという。従って、こうした基本の型があるので、世界中どこでも「プロレスラー」と称する人たちは初対面でも対戦できるということらしい。
いずれにせよ、プロレスの話というよりもその裏面にある「時代」を掘り下げたテーマと言う事ができ、プロレスファンならずともお勧めしたい一冊である。

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